もじすきー君と
龍の宝玉

"Novelskey" Original Characters fan fiction



「むむ……」  友人……もとい友猫おとすきーのディージェイライブの帰り道、もじすきーは道を間違えて暗い山の中に迷い込んでしまった。今日は零時前後にノベルスカヤ達と催し物を鑑賞する約束があるから、早く帰らねばならないというのに。困ったもじすきーは、ノベルスカヤに持たされたぴかぴか光るペンダントを周囲に翳した。すると、誰かが音も無く目の前に立っていることに気付いた。六・七歳くらいの子どもだった。肩までのおかっぱ頭に、白っぽい着物を身に着けている。  もじすきーは両耳をぴんと立てて、迷い子かと子どもに尋ねた。子どもは声を出さずに首を横に振る。次にどこから来たのかと尋ねると、子どもは山の奥のほうを指差す。奇妙に思ったもじすきーは、車道のほうに出たいのだが道を知っているか、と最後に尋ねた。子どもは頷いてくるっと後ろを向き、ついて来いとでも言いたげにもじすきーを振り返った。  枯葉を踏みながら子どもの後をついて行くと、すぐに見慣れた車道がもじすきーの前に現れた。 「ありがとう、助かった。ところで……」  もじすきーがあることを子どもに尋ねる。すると、子どもは懐から何かを取り出した。それは所々が雲のように白く濁った透明な硝子玉で、その中で龍が丸くなって眠っていた。もじすきーは、それは? と子どもに説明を促す。子どもの身振り手振りを解析するに、この龍が段々弱って硝子玉の中に閉じ込もってしまい、助ける方法が分からない、ということらしい。もじすきーは重ねて、龍がこの状態になったのはいつなのかを尋ねた。子どもは指を三本立てる。三時間かと訊くと、首を横に振る。では三日かと訊くと、今度はそうだと頷いた。  もじすきーはふわふわの手で片眼鏡をちょっと押し上げて「ふーむ……」と呟き、硝子玉の中を注意深く覗き込んだ。 「急に頼みがあるだなんて、どうしたんですか、もじすきー君。というか、こんなに寒いのに、お湯じゃなくていいんでしょうか」  近所の山の入口まで呼び出されたノベルスカヤとノベルスキーは、水を張ったボウルをもじすきーに手渡した。もじすきーはお礼を言って、むしろ水の方が良いだろう、と続ける。二人が首を傾げている間に、もじすきーは硝子玉をボウルの中の水にとぷんと浸した。  その途端、硝子玉は明るく光ったかと思うと水の中で急速に溶け始め、ボウルの中からしろがね色の鱗を持つ龍が勢い良く飛び出して空に舞い上がった。その衝撃でボウルの中の水が跳ねて子どもに掛かる。すると、子どもは今飛び出した龍よりも二まわりほど小さい龍の姿に変化した。ちょうどその時、それまで静かだった夜空にぽんぽんと鮮やかな光の花が咲いた。もじすきーが今夜ノベルスカヤ達と鑑賞を約束していた催しはこれだった。新年を祝うために地元の有志が企画したささやかな花火大会だ。  子どもの龍は大きい龍を追いかける前にもじすきー達を振り返り、空中でひとつ円を描いてから嬉しそうに空へ昇っていった。「ありがとう」と言っているようだ。大小の龍は仲良く連れ立って、川のある方角へと夜空を駆けていく。龍のしろがね色の鱗は、花火の光を反射して時折虹色に輝いた。  それを見送って、ノベルスカヤは「親子だったんですね」と微笑ましく呟く。ノベルスキーは地面に落ちたボウルを回収しながら、なぜ彼らに水が必要なことが分かったのかをもじすきーに尋ねた。もじすきーは「ここ一週間、雨が降っていなかっただろう」と答えた。 「それに、この山は雪が降るような山でもない。硝子玉の中を観察した時に東洋の龍のように見えたのに、山の上に住んでいるというところに違和感があったのだ」  もじすきーは子どもに山の出口まで案内してもらった後、「親が心配しているだろう」と尋ねた。すると、親が硝子玉の中に入ってしまって困っていると言うので、子どもの東洋風の装いを根拠に、東洋の龍だろうと推測した。西洋のドラゴンは山にいることが多く、東洋の龍は水に縁深い。だから、きっと水が足りなくて弱っていたのだろうと。 「でも、どうしてあの龍の親子は川の傍ではなくて山にいたんでしょうか……」  ノベルスカヤの疑問に、もじすきーはむむ、と片耳を折り曲げて考え込んだ。 「例えば、あの龍は或る書きかけの物語から抜け出してきた存在で、筆者が西洋と東洋の龍を混同し、山奥で暮らしている設定にしてしまった。そんな仮説が立てられる」  まさか、とノベルスキーは首を傾げたが、ノベルスカヤは「もしかしたら、そういうこともあるかもしれませんよ」と笑った。そして、何かに気付いて慌てたようにノベルスキー達の方へ向き直る。 「あっ、皆さん。忘れてました。花火が上がったということは、もう日付は変わっていますね。では、行きますよ。せーの……」  冬空の下、二人と一羽は顔を見合わせて声を揃えた。  ――あけましておめでとう!
 執筆・読書好き向けのMisskey系SNSノベルスキー内の「ノベルスキーお正月短編小説大会」参加作品です。今回の文字数上限は二千文字でした。  今回は一次創作でも可でしたが、二〇二四年は折角うさぎから龍へのバトンタッチの年だったので、うさぎの「もじすきー」君をどうしても出したくてこういう話になりました。
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